インタビュー掲載(2024.2.7)

2016年9月4日日曜日

「君の名は。」を通して知る日本の岩石信仰

デザイン・視覚表現の雑誌『月刊MdN』vol.270(2016年10月号)
「特集 君の名は。 彼と彼女と、そして風景が紡ぐ物語」にコラムを書きました。

新海誠監督手がけるヒット中のアニメ映画「君の名は。」の特集記事の一つです。

封切り前、試写会に参加させていただいた上で書きましたが、事前知識なしで見たのでストーリー展開にびっくりしました。
私の中では、浄化されたという表現が一番ぴったりきます。

人間の最もピュアな面を照射されるような、あるいは、えぐられるような。
えぐられると、照れが出たり、目を背けたくなるかもしれませんが、まっすぐ受けとめて楽しんだもの勝ちと私は感じました。
このあたり、見る人によって受けとめ方は変わるのではないでしょうか。


劇中に石の御神体が登場することから、「日本の岩石信仰」というテーマで依頼をいただきました。
極めてマニアックな「君の名は。」特集なのではないでしょうか。

なにはともあれ、日本列島に残る岩石信仰の世界を、一人でも多くの方に知ってもらえる機会をいただき感謝です。

岩石信仰の一般的な概要紹介というより、「君の名は。」に登場する様々な要素とリンクさせながら書いたつもりです。 ぜひお手にとってご覧いただければと思います。

Amazonリンク(9月6日発売)
月刊MdN 2016年10月号(特集:君の名は。 彼と彼女と、そして風景が紡ぐ物語 / 新海誠)
雑誌版(新品完売) https://www.amazon.co.jp/dp/B01KNCSZ3I
kindle版もあります https://www.amazon.co.jp/dp/B01HPLSZDA


「君の名は。」の御神体のモチーフについて


紙幅とテーマの都合上、コラムでカットした部分だけ、ここで語っておきます。

「君の名は。」の影響で、すでに劇中の聖地巡りをしている方も多いと聞きました。
余談ですが、劇中の石の御神体を見て、私が直観的に似ていると感じた場所をいくつか挙げておきます。
※もちろん新海監督に確認したわけでもなく、私の経験上の直観を書き連ねただけなので、作品のモチーフと断定するものではないことをご了承ください。


まず結論から言うと、特定のある場所をモデルにしたわけではないと感じました。
複数の聖地的要素が融合している印象です。

たとえば糸守の湖ですが、作品を見ながら第一印象で飛び込んできたイメージは、私は秋田県仙北市の田沢湖周辺です。

田沢湖の湖畔には御座石神社があり、その奥には高鉢山という山もあり、山中に「鏡石」と「かなえる岩」という岩石信仰の地が残っています。田沢湖の成因に諸説あることもそう感じさせました。
後日、web上では諏訪湖がモデルではないかという話を見ました。それもありではないかと思います。
特定の一つではないのです。


また、劇中の御神体はテラス状(石が二段の階段状になっている)の外見をしていました。
これだけ見ると、私は岐阜県高山市の位山にある「祭壇石」を思い出しました。祭壇状の外見、周りに樹木が少なく吹き抜けている様子、オカルト雑誌『ムー』との関わり的にも。

カルデラ的地形の中の神秘的な石、という点では熊本県阿蘇郡南小国町の「押戸石」とかも想起させます。阿蘇山外輪に位置しています。ここもオカルティックな評判がある場所です。

ただし、映画の御神体には、下部に岩窟状の内部空間があるのに対して、位山の「祭壇石」も阿蘇の「推戸石」にも、内部空間はありません。


まつられた岩の下が岩窟状になっている例自体は、日本全国に多く存在しています。

たとえば、群馬県高崎市の榛名神社の「御姿岩」や、大阪府交野市の磐船神社などが有名でしょうか。
でも、特定の一つには絞れないと思います。
榛名神社の「御姿岩」の内部は誰も見ることができませんが、古くから土器が供えられているといい類似性を感じます。

岩窟には、自然の岩陰をそのまま祭祀の場として利用したものと、自然の岩陰を利用して人工的に補強して岩屋状にしたものと、人為的に内部空間を形成させたものがあります。
劇中の御神体についてはいろいろ設定がなされていそうなので、これも特定する性質のものではないでしょう。


「君の名は。」では彗星との結びつきも見所で、星石の信仰という文脈でも語ることができると思います。

有名なのは大阪府交野市の星田妙見宮で、そこでまつられている「織女石(たなばたせき)」は伝説の内容から見ても、本作とオーバーラップできるものがあります。
愛知県名古屋市南区の星宮社や、たしか江戸時代の石の博物誌『雲根志』にも尾張の星石など、隕石をまつる信仰も岩石信仰の一つです。


岩石信仰の聖地巡りを通して、過去の日本人がなぜ岩石を信仰したのか、いや、今も信じている人がいるのか、ということに触れてほしいです。

聖地巡りは、実物を訪れることだけでなく、文献上で出会うこともできます。

むしろ、現地で感じた感情は、私たちの価値観を出ていないことにも注意したいです。

昔の人が書いた文章の中に、当時の人の価値観が忠実に残っています。
現代の私たちとは、発想や物事の受け止め方が異なること多々です。
その違和感を楽しむと、いわゆる聖地巡りがもっと意義深い愉しみに変わるのではないかと思います。

新海監督は古今和歌集の和歌から本作のアイデアを得たと聞きましたが、このような「文献の中での発見」もまた面白い出会いです。

岩石信仰という、私たちと異なった世界観に触れていただけると、この世界を細々と調べてきた人間としてはうれしいことこの上ありません。


関連リンク


「君の名は。」の御神体について知りたいです

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